尊敬の念を集める存在である秋さん。
この海で30年にわたり勝ちを狩り続ける男が
大切にしている言葉は「努力」。
日々海と向き合う秋さんの表情には、
石狩湾という豊かな海が育んだ
人間味がつまっています。
- 石狩
- 秋 健司
魚の群れが集まる場所に、船も集まる。
漁場選びの原則は、”早いもの勝ち”である。
しかし秋さんは経験と勘を頼りに、
他の漁師が狙わない場所にあえて網を張る。
「みんなここが獲れるというのが
わかってるって場所は混むから。
そっちじゃねえ場所で俺は獲ってやると。
勘の世界だよ。何よりそっちの方が楽しいし、
性格も捻くれてるからね」
穏やかに語るその表情の裏に、
勝負師としての顔が垣間見えた。
「若い頃はギャンブルもやっていたし、
痛い目に遭い過ぎてやめた笑。
いまは漁での勝負に情熱を注いでいる」
石狩湾の何よりの魅力は、
石狩川の河口から豊かな海が育まれ、
季節に応じた魚が獲れること。
1月からはニシン、春はシャコ、
夏はカニと狙う種類も変わっていく。
取材をしたのは12月。
朝5時の港では、漁から戻った船からは
たくさんのヒラメやカレイが水揚げされていた。
秋さんは若手漁師たちと分担しながら、
ヒラメとカレイの違いを一瞬で見分け、
手際よく血抜き作業を行なっていく。
「これは東北にいく魚。
ヒラメとカレイ、似たような魚でも
鮮度よく届けるための処理は変わる」
その後も、網の中の魚を外していきながら
種類やサイズごとに選別し、出荷していく。
家族や地域の住人と一緒に、
新鮮な魚を送り届けている。
はじめに漁師になったきっかけは、
父親の背中を見て育ったから。
中学卒業の翌日には、
すでに石狩湾の海に出ていた。
しかしまだまだ遊びたい盛り。
当時は辞めたいと思うこともあったそう。
そして19歳から1年ほど漁から離れ、
家族に迷惑をかけてしまったこともあった。
20歳。再び漁師に戻ってきた時には、
この海で生きていく覚悟を決めていた。
「若い頃から、父親もそうだし、
先輩の背中を見てきた。
もう80歳になる現役の先輩もいる。
背はちっさいのだけど、ココ(心)は強い。
尊敬している。
自分も体力が続く限りはやりたいね」
エンジンをかける前に、船の神棚に手を合わせ、
安全と大漁を祈るのが日課。
勝ちを狩るためにも、安全を大事にする。
「船ん中はお守りだらけだよ笑。
若手2人も乗せているしね。
若い漁師は、まだまだ遊びたい時期だろうし、
若い頃の自分を見ているよう。
でも、漁の楽しさを知ってほしいし、
いつか独り立ちして欲しいと思っている」
基本的に、食事は丘に戻ってから
食べるという秋さんだが、ホッキ貝は別。
「ホッキ貝をチャチャッと剥いて、
沖の上で食べるのは大好き。
鮮度がいいから抜群にうまいし、
忙しい中でもチャチャッと食べられるのがいいね」
「生まれ変わったら、海上自衛隊か
保安庁のレスキューヘリに乗りたい。
昔憧れていて、かっこよくて。
飛行機苦手だけど、海から空へ。
今度は、狩る側から守る側になってみたいな笑」
冗談ぽく笑う勝ち狩もんの表情には、
石狩湾が育んだ豊かさが溢れていた。